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日本の松をまもる 松 高嶋雄三郎著より

日本の松をまもる

近年、最も凄惨な最期をとげた松の木ーそれは千葉県三里塚で成田空港建設の強制執行の犠牲となった一本松であろう。一本松と言っても1カ所ではなく。3カ所あった一本松の総称であった。松の木の最期には、松と農民たちの断ち難い心のつながりがあった、松はチェーンソーで傷つけられ、そのあとロープをまかれて引き倒されようとした時、一人の農婦が必死にしがみついた、永くなつかしい一本松、心のささえでもあったこの松の最期が、農民たちにとってどれほどか、いとしかったのであろう。自分の危険も忘れて頬をすりよせて泣いた。切り倒される松の木に体ごとクサリでしばりつけた農民もいたという。

公害戦争、人口過密化のまきぞえで枯死し切り倒される松の中で、人間生存の無常な歯車にまきこまれ、万余の日本人の眼前で無惨にへし折られ切り倒された松は三里塚の松が始めてである。いつの日か成田空港から飛び立つ時がきたら、瞼に浮ぶ三里塚の一本松に、私は一掬の涙をそそぎたいと思っている。「松」高嶋雄三郎著から抜粋