松 高嶋雄三郎著
はしがき より松は日本人の瑞祥の表れ、神木として滲透してきている。古来、縁起のよい食物として、その常緑という点からいっても変わらぬ操の正しいもの、かつ風雪に堪えるものとして、長寿延命に結びついて伝承された。 |
こうして調べてきた伝承の松のことであるが、私とても伝承をそのまま歴史だと主張するものではない、しかし、庶民が口から口へ伝承してきたものだということは厳たる歴史的事実であり、文字を知らぬ庶民が口づたえに残してきた伝承・伝説は、まさしく庶民の歴史の集積といってよかろう。伝承はいわば民族の詩で、それが長い歳月の間に、素朴な庶民のなかに芽生え、開花・結実したものだと思うと、伝説も決しておろそかに出来ない。。。 門松も松羽目も、結婚式の篷きょう山の山台に立つ松も、日本人が今日まで何千年の伝承のいたるところで、松と向かい合ってきたのは、松が神霊を宿す神聖な木であり、樹木信仰の対象とされてきたからである。 |